昨年末の12月29日に、シューマッハ・カレッジの1週間の短期コースに参加された、黒田俊介さんのお話を伺う会がありました。

当日は他にも同じ時期にカレッジで学ばれた5名の方々が参加してくださり、お話いただいた経験はキラキラした宝物のような内容でした。

 

シューマッハ・カレッジはどんなところ?

 

皆さんはイギリスにある「トットネス」という町をご存知ですか?

ロンドンから特急で2-3時間ほどの南部の町で、人口は8,000人ほどです。トランジション・タウンに興味があったり、実際に活動に携わったりしている方々からすると、トットネスは気になる存在です。トットネスはトランジション・タウン発祥の地。地域のコミュニティで、マンパワーやふさわしい質と量の資源を活用し、持続可能な社会を目指す、それがトランジション・タウンの在り方です。現在私達が面している気候危機や、自然災害を生き抜くひとつの手段として、こういった取り組みは日本でも不可欠になってきています。

 

そのような取り組みをしている町に、サスティナブルな生き方、社会の在り方を学ぶ大学院「シューマッハ・カレッジ」があります。「スモール・イズ・ビューティフル -人間中心の経済学-」を書いた経済学者、E・F・シューマッハの名前と思想を受け継ぎ、インド出身でイギリスを中心に活動する思想家、サティシュ・クマールが創設しました。エコロジーを中心とした内容の、修士課程、短期コース、園芸プログラムなど、様々なコースが設置されています。トットネス駅からタクシーで10分ほど。美しい自然が広がる中で学び、深めることができます。

シューマッハカレッジは、ホラクラシーの考え方に従ってカレッジを運営しているそうです。
ホラクラシーは、ティール組織への移行を支援する1つの方法論です。
ホラクラシーでは、各役割の人たちが誰からの命令というわけでなく、自分の気持ちにしたがって行動していきます。
シューマッハカレッジの朝会では、「
その行動報告と気持ちの両方をシェアする」ということを行っていたそうです。

 

シューマッハ・カレッジ公式サイト

https://www.schumachercollege.org.uk/

 

 

心を通わせる、絆深まる暮らし

お話会を進行してくださった黒田さんは、1週間の「Gandhi and Globalization」コースに参加されていました。ガンジーの非暴力、地域経済、自治、精神性、社会正義の原則について学ぶコースです。

シューマッハ・カレッジの特徴のひとつは、「学びだけでなく、暮らしを共にする」こと。

参加されていたコースの内容とリンクする、内面から湧いてくる支え合いを体現するような生活を想像することができます。

1週間のコースにほとんどずっとサティシュがいてくれて、朝昼晩の食事も共にしてくれたそうです。コースに参加するまでは、サティシュはもっと遠い存在なのかと想像してたけれど、とても身近でうれしかったとお聞きしました。

Soil to kitchen(土からキッチンへ)。カレッジの周りにある畑で共に育てて収穫し、共に調理し、食事前は手をつなぎ、共に祈り、食べる。1週間の短期コースのうちにも、何度かキッチン当番が回ってきたそうです。共同生活でお互いを支え合い、みんなで学びながら生活を共にする体験する…… シューマッハ・カレッジの建学の精神が、24時間流れています。

 

 

印象に残るカリキュラム

名物カリキュラムのひとつに「ディープタイムウォーク」というものがあります。

森林浴や聖地巡礼など、意識的に目的を持ちながら歩くことは、人々の生活を豊かにすると言われています。このカリキュラムでは地球の誕生46億年前から現在まで、4.6km歩きながら、1メートルあたり100万年と換算して辿るウォーキングを行います。半日がかりのウォーキングで、なんとスマホ用アプリも出ているそうです!

また滞在した時期が、同じトットネスで暮らすトランジション・タウン運動の創設者、ロブ・ホプキンスが新しい本を出版したタイミングだったので、なんとご本人がプレゼンテーションをしてくださり、それを生で聴くことができたのを、とても嬉しかったと話してくださいました。

 

また、印象的だったロブの言葉をシェアしてくださいました。

マグカップを見ながら、どんな使い方がイメージできるか?という例えを出し、「イマジネーション力が大切。2030年、どんな地域になったらいいと思う?」という問いが。

「気候変動など、不安を煽るのではなく、まず自分たちがどんな地域に暮らしていたいかを思い描き、それが実現できるようひとつひとつ、一歩一歩作ってゆく。考えてイマジネーションするところからはじめよう。ビールの会社、パンの会社。。

ビールもパンも、なぜここで話題に出るのだろう。それは経済、人、行動、物が、ひとつにつながっていることを示しています。トットネスでは、最近は地元経済を育てる別のアプローチとして、町が起業家をどんどん押し出していくことに注力しています。想像力を駆使し、様々な切り口でコミュニティを活性化するヒントを得ることができるのです。

 

 

分断から協働へ

「修士課程に在籍中の浩二さんは、 昨夏「Nourishing The Soul(魂を養う)」という コースに参加したのが留学のキッカケだそうです。

地方に移り住み、何か仕事を作りたいと思った時に、何かが足りないと感じたそうです。

「手を使って何かを作っている人もいるし、スピリチュアリティなど心と魂を整える活動をしている人もいるし、社会運動をどんどんやってゆこうという人たちもいるけれど、そういう人たちがバラバラに活動していて、みんないいことやっているのに分断がある。1つになってなかったり、コラボが生まれにくかったり。そこで、手と頭と心をつなげ、共通点を探し、相手を敬いながら、違ってもいい、協力できるところをみつけてゆくことがいいのではないか。狭いところに行かず、つながり合うと、もっと素敵なことができるんじゃないか」

Kさんの気付きは、つながりから生まれる可能性を伝えてくれるとともに、私達は分断しやすい存在だということを教えてくれます。認識している課題を共有することはできても、お互いのちょっとした意見の相違や行動の強弱で、共に手を取って歩むという選択肢を消してしまいがちです。いつから「つながること」が難しくなったのでしょうか。シューマッハ・カレッジで学んだ皆さんの体験談をお聞きしていると、人はすぐにつながることができるのを感じられるのに。

 

 

信頼が息づく、真のつながり

Sさんは日本の大学院で学ぶ学生で、ホリスティック教育について研究をされています。大学の授業でカレッジの話を聞き、研究しているホリスティック教育が高等教育機関でされているのに興味を持ち、コースに参加されたそうです。

印象的だったことは、カレッジ内の宿舎に案内されたとき、ドアに鍵穴があるけれど、鍵をもらわなかったことでした。

それはお互いへの信頼がそこにあることを意味していました。

鍵を閉めずに外出するなど、この現代ではなかなかできないことです。人を信頼できることがカレッジに息づいており、それをできる人が自然と集まってくる。カレッジで学ぶことは万人に開かれていますが、もしかすると、天に選ばれた人しかたどり着けない場所なのかもしれません。

 

 

外的世界・内的世界

私達の幸せを作っているのは、External world(外的世界)なのでしょうか。それともInternal World(内的世界)なのでしょうか。カレッジでの経験の延長線上で、こんな答えを聞くことができました。

幸せは外側で起こった事象ではなく、内側の感情を受け入れるところから始まり、すなわち内側の世界が変わると、外側も一緒に変わっていく。「どうやるか」ではなく、「どう感じるか。どう在るか。」

「現地にいる人が美しい。表情が幸せ。女性が何の抑圧もなく生きていて、何の区別もなくいるとき、こんなに美しいのだと思った。」と。

 

“幸せとは感情を共有すること”

コミュニティを育むには、全ての人が幸せな気持ちで暮らす必要があり、そうであることを皆で願う、そんなあたたかな心が自然にわいてくるつながりでありたいものです。

 

また、「Values and Frames」という価値観に関するワークショップについてのお話では、“人々の中から起きる価値観”と、“人々の外から来る価値観”について、興味深い視点をシェアすることができました。

 

「人は自分自身を過大評価していて、自分は中からわいている価値観で動いていると思っていても、実は外因的な要因で動いている場合も多い。 リベラルな人ほど、他の人はあまり内的なことを重要視していないと思い込んでいる。変えていこうと思っている人ほど 世の中をダメだと思っている。でも、保守的な人でさえ、実は外因的な価値観よりも、うちから湧いてくる価値観の言葉の方に共感して行動する傾向がある。」 このことに、世界にはもっと希望があると感じました。問題は外ではなく、自分の中にあったんだ。」

 

変化を望み、外へアンテナを張り巡らせるほどに、世界のネガティブ面がたくさん見え、どうにかしたいという課題ばかりが増える…… 実際は少しずつ改善しているのにも関わらず、そのスローな動きに気付けずに、心ばかりが先走ってしまいます。まだ一般的には浸透していないトランジション・タウンの活動に興味のあるあなたは、コミュニティへの希望を抱いている方なのでしょう。シューマッハ・カレッジの智慧は「つながり」。皆で気付き、一緒に行動すれば、きっとひとりぼっちで焦ることなど必要ありませんね。

「メリットがあるからという方向性で行動するのではなくて、自分の中にある美しさから行動したいと思っている人は、ほんとはもっと多い。自分の内面から来る美しさを信じる。自分の中にあるイメージがダメだと、世の中もダメ。」

 

感情について、こうも付け加えられています。

人を説得することは、できない。

人を動かそうと思っても、うまく行かない場合が多いけれど、ツールや方法を共有して一緒に体験すると、人は変わっていく。

失敗しても皆が許してくれる、安全だと体感できる場所を作ることが大事。守りに入らなくていい。入学したときに、まるで祝福を受けるかのように、目を開けると仲間が待っていて、名前を呼んでくれ、一人じゃないよと言われる。そこに来ることができた人から変わっていく。

 

 

トットネスの「今」

現在、トットネスに暮らすIさんは、大学で教鞭を取られている先生で、元祖トランジション・タウンの現状をシェアしてくださいました。

カレッジでサティシュとロブ・ホプキンスに直接会えたことが大きかったと話してくださいましたが、「トットネスに来たら、意識がすごく高くて、コミュニティのアクションが直接見えると思っていたが、そうでもない」という。

シューマッハ・カレッジや、トランジション・タウン発祥の地であることなど、サステナブルな暮らしを目指す人々にとって実践の地、また学びの地であるトットネスは移住者も多く、8,000人ほどのコミュニティは、人口が今でも少しずつ増えているそうです。
人口構成としては50歳代が最も多く、高齢化が進んでいるとはいえ、日本に比べれば若い人も多い印象とのことです。

そして町が保守的なのもあり、地域通貨=トットネス・ポンドは、昨年で一旦なくなっています。
キャッシュレス社会が進み、買物をするときも、店員から地域通貨のみならず、紙幣の支払さえ面倒くさがられる様子。
町の経済を地域通貨で回していこうと実験的に行ったものの、それが実際にどう使われているかというと、観光客が買っていく場合が多く、町にとどまりにくいという。また受け取った人はすぐに現金に交換したがるので、ツールとして流通していないとのこと。

実際に現場に来てみて、そういった想像と現実のギャップの空気を感じる重要性を感じたそうです。

 

 

参加したきっかけはインスピレーション

皆さんの参加したきっかけをお聞きしていると、ガンジー生誕150周年をきっかけにしていたり、大学の授業でカレッジの話を耳にして衝撃的に行ってしまったり、英会話の勉強のためにサティシュの録音を聴いたら絶対に行きたいと思ったなど、本当に様々でした。どのきっかけも魂を揺さぶられたような勢いがあり、行くべくして行かれたのであろうと感じます。

 

今回のお話会は、あっという間の2時間でした。まだまだ伝えたいことがあり、最後まで会話が途切れることがありませんでしたが、それは次回の開催までのお楽しみです。私達の知らないシューマッハ・カレッジの様子をお聞きしたいと思っています。

 

きら河合史恵@英国シューマッハ・カレッジでの学びシェア会レポーター