安心安全な食べものを作る生産者さんと、人と人として出会う対話会。
ゲストは、熊本・南阿蘇の山口じろうさんと、宮城・川崎町の佐藤大史さんでした。

まずは自己紹介から

 

山口じろうさん:

南阿蘇は、九州の中で最も涼しく、東北と同じぐらいの気温で、水と空気がとても綺麗なところです。

雪も多い時で70センチぐらい積もり、マイナス15度までいく時もあります。

寒いのでストーブをつけていることも多く、ストーブでパンを焼いたりもしています。

佐藤大史(まさふみ)さん:

蔵王の北側、ポツンとある山の中の集落で、天の川が見える綺麗なところです。

まわりでは縄文遺跡群も発掘されています。人間より動物の方が多いような場所で、

電気柵が必須です。隣の仙台市には車で4、50分ぐらいで行くことができます。

―農業で生きていこうと思われたきっかけはなんですか?

 

じろう:小さい頃から育てることや動物飼うことが好きでした。あまり勤めたことはないのですが、人に頼って生きるということに違和感があって、自分で何もかもやりたい、と思っていました。欲張りなのかもしれないですけど。自分で食べる野菜を自分で作ってみると、すごくそれがしっくりきて、心の安定が保てるようになりました。

 

―心が安定する。すごく心に響きます。

 

まさふみ:もともと自然の中で仕事したい、いつか自給自足したいと漠然と思っていました。田舎に住もうと決めた時、手に職が何もなかったので、これはもう農家やるしかないなと覚悟を決めてやりはじめました。

 

―お二人とも、自分で食べるものや自分の暮らしにまつわるものを自分で作る、という立ち位置が共通していると感じました。ものや食べ物を自給することで何が得られるのでしょうか?

 

じろう:作物を種から少しずつ育てていくうちに方向性が見えてくるのと同じように、自分の内面にあるいろいろな種に少しずつ栄養を与えて育てていって、自分でできるということが見えてくると安心感につながります。

 

―都市で生活する人たちは、お金を払って何かと交換するということが当たり前だと思っている人たちが大多数で、彼らには「自分で作るってどういうこと?」という疑問があると思うので、あえてお聞きしました。ありがとうございます。

 

まさふみ:野菜や米、木材や服でも何でも、丁寧に向き合えば大体のものは作れるんだなと分かったことが、安心感やぶれなさにつながっていると思います。といっても全部やろうとすると大変なのでバランスは大事ですが。

 

―何と何のバランスですか?

 

まさふみ:例えば、種はたくさん蒔こうと思えば蒔けますが、お金にしなきゃという不安などから蒔きすぎてしまっても、結局自分で全部収穫しなくてはならなくなる。そういう意味でのバランスです。

―なんだか奥が深い話ですね。自分でものを作り出してる方の、しっかり地に根ざした力強さや生きているという実感にノックアウトされている気持ちです。参加者のみなさんは、今までの話を聞いてどう感じていますか?

 

Y:私は東京の都心に住んでいるのですが、実家の静岡では、おばあちゃんの代まではみんな自分の身のまわりのことを自分でできるのが当たり前だったように思います。たぶん高度経済成長で全て失われたのでしょうけれど。おばあちゃんが畑をやったり、味噌や醤油を作っている姿を小さい頃に見ることができたのはありがたいことでした。それがあるので、お二人の話を聞いていて共感したし、そういう人が増えているということが嬉しかったです。

 

 

P:高千穂で一年半前に新規就農しました。じろうさんには阿蘇でお世話になって、その暮らしぶりにはエネルギーをいただいています。ここで家を買って土地に根ざした暮らしを始めてから、地元の人たちと気持ちが通い合い、循環し出した感じがします。さっきも「木屑があるから取りにおいで」という電話をいただいたところです。お二人のお話を聞いていてとても共感して、もっと多くの人に聞いてほしいなと感じました。たとえ世の中に不安要素が流れていたとしても、土の上の暮らしがある限り、自分で食べ物が作れるし、何かあってもぶれない。そうした豊かさを人に分け与えることができるという安心感が生まれます。それまでとは次元が違う暮らしぶりを自分でも驚きながら過ごしています。

 

H:まさふみさんと同じ宮城県川崎町から繋いでいます。まさふみさんの作った野菜を使って食堂で調理をしており、その野菜の素晴らしさを感じています。作り手さんと食べてくださる人が直接繋がれるという、このすばらしい機会を応援したいです。

 

W:宮城県石巻市から。マッサージの仕事をしながら、まさふみさんの畑を週1回ほど手伝って、命にとって大切なことを勉強させていただいています。土に触れることは私にとって、人に帰れる時間。それまでは、働かなきゃと必要以上にがんばって疲れ果てていましたが、まさふみさんと出会って、そんなに働かなくても自分が食べる分だけでいいんだ、ということに気づきました。

 

―みなさんから素敵なお話を聞いてエネルギーをいただいて、元気になってきました。お二人が現在の拠点を決めた経緯はどのようなものでしょうか?

 

じろう:福岡出身ですが、熊本市内に住んでいた時に、阿蘇でパーマカルチャーの活動をしていました。きれいな空気とおいしい水があったことや、たまたま空いている家があったこと、息子の進学のタイミングなど、いろいろな条件が揃って今の場所にやってきました。

 

まさふみ:私は出身も宮城で、ここから1時間半ほどのところで生まれ育ちました。5年ほど前に、近隣の方とのご縁で家と畑を手に入れることができ、まるで用意されていたかのようにトントン拍子に移住が決まりました。

 

―物を作ったり作物を育てるようになったきっかけは?

 

じろう:大学時代は農学部で、畑作クラブに入っていて、下宿しながら野菜を作っていました。大根などすぐできる野菜や花など、土地やプランターさえあれば作っていました。

 

まさふみ:祖父が岩手で百姓をやっていた姿が原風景にあったのだと思います。一番初めのきっかけは、インドにいた頃、「働きたくないが、どう生きていけばいいのだろう」と思った時に、野菜を作ればいいと思いつき、福岡正信さんの本を読んだりしたこと。それからしばらくはまだ、ふんぎりがつかずにいたのですが、後に覚悟を決めました。

 

じろう:その感じはわかります。私は37歳の時に、今やっておかないと体力が衰えてできなくなるからと思い、心機一転、引っ越すことにしました。

 

―どんな作物を育てていますか?

 

じろう:メインは、伝統野菜のツルノコイモ。ビオラやパンジーも2万ポットぐらい植えています。市場にも持っていきますがほとんど手売りです。あとは高森町で発見されたミサオダイズ。あとはピーナッツや麦。その他の野菜も、自分が売ることのできるバランスを考えながら作っています。

 

―ツルノコイモはあっさりしていながらコクがありとても美味しいお芋ですね。今度収穫できた時は私の友人たちにも宣伝したいです。

 

じろう:収穫時期になると自分も食べたくなります。ずっと保存して食べられるし、地元で作っているので気候の影響もあまり受けず必ず収穫があるというのが強いです。地産地消ということで、役場の人から頼まれて、地元の小学校給食にも出しています。小学生たちが畑の見学や体験にも来ています。

 

―子供たちの口に直接入る給食に参入できることは素晴らしいですね。どのような経緯で地元の農家さんと小学校の提携が実現するのか、自治体によっても違うとは思いますが参考になります。

 

まさふみ:今はまだ模索中なのですが、ものすごく多くの種類の作物を育てています。チュルシーを一千平米ぐらい育てているのと、コーン、米、ズッキーニやナスなど80から100種類ぐらい。今後は米にシフトしていこうかな。作った野菜をつけものに加工することも考えています。また、今は種取りが楽しいです。種を取って無肥料で作れるナスを作るとか。

 

―チュルシーティーも飲み比べると生産者によって土地や育てかたが違うので、全然味も違うんですよね。ところで、この対話会を企画したのは、地産地消だけでは解決できない問題があるのではないかと思ったからです。同じ地域で生産していると、同じ気候、同じ土なので特定の作物がたくさんできすぎて地域内では余ってしまう。なのでもう少し広い範囲で、顔見知りの間で安心して売り買いできる関係が作れればなと。作物を育ててお金を得て、生活の糧とする上で感じている問題点や改善点を教えてください。

じろう:作って食べる、というところまでの提案をできるようになれば販売まで繋がるかなと思っています。直売所で売れるのは定番の野菜ばかりで、変わった形の野菜は売れず、それらはほとんどレストランにしか出していません。売れるとしても10人中1人ぐらい。今、ルバーブを作って食べ方も提案しています。講座を開くと、4、50代の女性を中心に満員になります。友達がたくさんできるし、いつも会えない人とも会えて楽しいです。同じように、目新しい野菜も食べ方を提案しながら販売できたらいいなと思っています。老後は妻と二人でフードトラックで巡回して販売したいというのが夢です。

 

まさふみ:販売をするのが実は苦手で、これからは野菜よりも苗を売りたいなと思っています。買った人が自分で育てるので、栽培方法や種の採り方を教える中でつながりができる。そして時々畑にも遊びに来てもらったり。都市部の人も「エディブルシティ」のような感じで野菜を作ってしまえばいい。

 

―都市生活者に対して、こんなつながりを作れたらいいということなど、期待していることを教えてください。

 

まさふみ:ちょうど先日、フェイスブックつながりで東京から20代の女の子が手伝いに来てくれたのですが、こういうのもありだなと思いました。ぜひいろんな方に遊びに来てほしいです。こちらからも東京に野菜や加工品を売りにいこうと思っています。そうやってつながっていければ。

 

じろう:収穫量を予想するのは難しくて、たくさん作りすぎて余ってしまったりもします。だからといって販売に追われて疲れてしまうのも嫌なので、気持ちよく販売できるところが増えたらいいなと思います。イモなら日持ちするから届けられるかな。ただ、今、子どもの部活などの関係で、販売できる日が限られてきてしまっているので、新たな販売形態を模索しているところです。買ってくれる方に写真や動画で生育状況などについてもお知らせできるような仕組みなどがあれば、買い手の方も栽培に一緒に関わっているような気持ちになれるのでいいんじゃないかなと思っています。私の家はいつも誰かが来ているのが日常のオープンな家なので、いつでも遊びに来てください。

 

A:北安曇郡で農家をやっています。今年は大豆と黒豆に力を入れています。ところで、最近わかったのは、大豆をそのまま袋詰めして並べても、都市部の人たちは調理法がわからないので買ってくれないんですね。一晩水につけて柔らかくすれば色々なものに使えるということや、調理の仕方など、大豆の豊かな魅力を伝えたいです。

 

Z:京都でコーヒーの焙煎をしています。コーヒー豆の原産国で豆が値下がりしているのですが、せっかくいいものを作っても、お金でしか評価されないために、生産者さんがやる気をなくしてしまっているという現状があります。お金以外で作り手の方たちとつながるような流れができればいいなと思っています。多分次の世代の、ブロックチェーンなどの世界的な地域通貨の話になってくると思うのですが。さっき形の違う野菜の話が出ましたが、私は美味しいものなら形が変わっていても食べてみたいタイプ。そういう変わった野菜の販売を応援できるような場所もあったらいいなと思います。

 

―補足ですが、カンパニアでもコミュニティ通貨のことは計画しています。ただ、それが成り立つためには、仕組みだけを取り入れるのではなく、実際に交換できるものがないと、結局値引きするだけになってしまい、農家さんの負担になるだけ。ある程度の数のコミュニティ自体が育ってリソースが見えるようにならないと、実際の流通は起こらないと考えています。だからコミュニティを育てるということを今は最優先にしたいと思っています。

 

Y:都市で生活しているけれど、新鮮な野菜が食べたいと熱望している人は私以外にもたくさんいると思います。だからといって生協やパルシステムでいいというのではなく、じろうさんやまさふみさんのところから、というようなつながりができればいいなと思います。先日舘岩でごぼうのサラダを食べたのですが、これがとてつもなく美味しくて久しぶりに感動しました。こんな感動を都市生活者も求めています。

 

P:皆さんのお話にエネルギーをもらいました。大豆を作っている友達で、豆の選別など手間のかかる仕事を買い手にもやってもらうことで自分たちの負担は軽くして、そのぶん安くして売っているという人がいます。仕事を買い手にも分担することで、あたたかく豊かな時間をみんなで共有できるというのは素晴らしいなと思います。

 

H:東京で、おばがまさふみさんの送ってくださる野菜を使ってレストランをしているのですが、新鮮な野菜がすぐに届いておばもとても喜んでいるし、お客さんにも美味しく食べていただけています。

 

じろう:31日から2週間、息子と一緒にデンマークのエコビレッジや小規模農家をまわってワークショップに参加したりしてきます。一番忙しい時期に妻に任せきりにするのは申し訳ないですが、楽しんできます。

 

まさふみ:じろうさんのところも行ってみたいです。今、畑にはたくさんキャベツがありますがもうすぐ終わりそう。野菜セット、東京なら次の日には届けられます。私は自分のことをただの生産者と思ったことがないですが、今日じろうさんとみなさんのお話を聞いていて、少し勇気と自信をもらえた気がします。私も以前都会にいて、悶々としていた時期もありますが、ここでできたつながりが、都市で暮らしている人たちにとって何かのきっかけになったらいいと思います。

 

―今の時期販売できるものがあれば、今日のイベントページに書き込んでください。野菜セットを直接販売できるページなどもシェアしていただけたらと思います。周りの農家さんで紹介したい方がいたら是非誘ってください。今日はどうもありがとうございました。

(参加者さん全員の画面の写真を撮るのを忘れてしまいました。残念、、、)

◎動画の全編をご欄になりたい方は、こちらをクリックしてください。

https://youtu.be/PVi9tpGKf5g

きら河合史恵@「この人の作る作物を食べたい❣️」に出逢う対話会インタビュア